前略




 以前会ったとき、親友と一緒にいた女の子からメールが届いた。
 正直なところ、携帯メールというのはあんまり好きじゃない。というか、信用できない。だってあの画面からは、相手の顔が見えてこないから。相手の息遣いが、聞こえてこないから。本当に大切なことは、直接じゃないと伝わらないんだ。
 でも、この場合は仕方が無いのかな。彼女は、メールアドレスしか、俺に繋がる方法を知らないから。本当はこんなこと、メールなんかで軽々しく表現するものじゃない。誰かを好きだなんて、機械の文字で伝えるべきじゃないことは、きっと彼女も分かっているんだろう。でも、メールでしか伝えられなかったんだね。
 分かるよ。

 春に親友を訪ねたとき、彼女は親友の隣にいた。彼女が親友を好きなのは、すぐに分かった。そういうことに鈍感な当人は、まだあんまり気付いていないみたいだったけれど。
 可愛いと思った。必死でひとりだけを追いかけていて、しがみついていて。3人一緒に、少し歩いた。彼女は、たった一人に自分の存在を気付いて欲しくて、一生懸命だった。楽しそうに笑っていて、些細なことで喜んで。俺が親友の話をすると、照れて幸せそうにまた笑った。  彼女の思いが、叶えば良いと思った。彼女ならば、俺の親友の疲れた気持ちも吹き飛ばして。そしてもっと、幸せそうに笑えば良いと思った。

 夏に訪ねたときは、偶然会った。彼女は心から驚いて、まん丸な目をした。そして、俺の手を握ってぶんぶん振った。自分でも何をしているのか分からないみたいな顔で、少しおかしかった。
 そのときもやっぱり、3人で少し歩いたんだ。月が出ていた。親友が一人でどんどん先へ行ってしまうので、彼女は凄く不安そうだった。「彼は、寂しい人だから。」あんまりヒトに気持ちを許さない親友のことを、俺は言った。だから、そんな悲しい顔をしないで?
 彼女は言った。
「でも、私はふたりが好きだから、立ち入り禁止にしないで欲しいんだよ」
 そして俺は、彼女もまた、寂しいんだと知った。
 「俺でよかったら、いつでも話聞くから。」壊れてしまう前に言って頂戴?そう言って、アドレスを渡した。出来るなら、少しでも支えてあげたかった。俺の知らない所で、ひとりで折れてしまわないで。

 あれは、1年くらい前。殆ど連絡は来なかったけれど、こんなにも鮮明に彼女のことを覚えている俺がいる。
 送られてきた彼女の文面は簡潔で。きっと、悩んで、悩んで、何度もためらったんだろう。そして結局、言葉は見つからなかったんだろう。
 本文はたった2行だった。タイトルは、付いていなかった。具体的なことは何ひとつ記されていない画面は、かえって彼女の意思や諦めを表しているみたいだった。
 過去形にされた恋の言葉は、彼女の傷ついた心を見るようで。それでいて、痛みなんか感じてないみたいに振舞った。

 何だか、悲しかった。
 きっと彼女は笑って言う。そう思って、悲しかった。


*この小説は更級さんからのキリ番リクエストにより、「拝啓」の続編として書かせていただきました。



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