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素麺 頭が痛い。 昨夜、少し肌寒いと思いながら不精して毛布をかけなおすのを厭ったからだろうか。何だか体を動かすのも大儀で、暑さがこたえる。 何かをしようとすると痛いので、仕方がないからぼんやりしている。テレビでもつけていれば気が紛れるのに、鼓膜が震えても痛い。ひと眠りすれば楽にもなりそうだけれど、もうすぐご飯の時間なのだ。 窓から見える景色はそろそろ夕闇が見え隠れして、夏も折り返しなのかもしれない。日が短くなってきた。 誰か私のために素麺を茹でてくれないだろうか? 素麺が食べたいなあ。冷たく冷やして、つるつるっと。薬味たっぷりで。つるつる、つるつる。 小さい頃は毎日のように素麺が食卓に上ったので飽きてしまい、とうとう「私は素麺が嫌い」と公言してしまった。だって、その頃は本当に素麺に飽き飽きしていて、見るのも嫌で、憎悪していたと言っても過言ではなかったのだもの。 本当は、そこまで嫌いじゃあない。夏の初めに初めて食べるときは、こんなに美味しいものがあったのかと思うし。多分、週に2回くらい食べるのなら、好きと言っても良いのではないか。 でも、かつて半ば呪詛的に宣言してしまった手前、一人暮らしをするようになってからは一度も素麺を買ったことがない。したがって、自分で茹でたこともない。一人で素麺を食べたこともない。 そうか。それで、私は今、自分で素麺を茹でる気がしないのかな。まあどうせ、うちに素麺の買い置きは無いのだけれど。あったとしても、自分で鍋にいっぱいお湯を沸かして、ひとりぶんの素麺を茹でて、ひとりぶんの薬味を刻んで、ひとりぶんのめんつゆを準備して、実家でやるようにひと吸いずつ丸めて、いただきます、つるつるつる…なんて、今はやる気がしない。何しろ、決まりが悪いし。大嫌いって言っちゃったものだもの。 でも、私は今素麺が食べたい。献立は、冷奴なんて付いてたら最高だ。どっちも、今うちには無い。 ああ、頭が痛いなあ。誰か、私のために頭痛薬を持ってきて、素麺を茹でてくれないだろうか。そして出来れば向かいに座って、黙って一緒につるつる啜ってくれないかしら。めんつゆくらい、準備しても良い。茹でた素麺を束にするのだって、私がやるから。 かんかんかんかん ごとんごとんごとんごとん 踏み切り、煩いってば。人が頭痛に苦しんでるっていうのに。 そろそろ日が沈んできたから、カーテンを引かなくちゃな。それにしても、夕ご飯は何にしようか。 |