意識が昇ってきて、何時の間にか冷たくなっていた空気が肌を刺した。
窓の外は暗くて。
昨夜から酒瓶と一緒に留まり続けるその人が未だ微動だにしないのを確認して、瞼が上がりきる前にもう一度閉じた。
まどろみは続くだけ続くけれど、眠りの淵はなかなか僕を捕らえに来ない。
飽きてきたな… そんなことを、ずっと考えてた。
normal
毛布からはみ出た手の平を包む空気は、一層に冷えた気がする。
次に目を開けたときには、窓の外はすっかり明るくなっていた。
開けられたカーテンの向こうに見える空は、すっきりと青い。
目が腫れぼったくて、重たい頭を枕から上げないまま 隣を見る。
誰も居ない。
帰ったのかな?
ちょっと。
こっちは君が起きないから 無理矢理目を瞑っていたっていうのにさぁ。
肩がだるい。
時間的には十分に横になっていた筈なのに、きっと 深く沈めなかった所為で。決定的に倦怠。
こんなとき、もうお酒なんぞ呑むまいと思うのに(嘘、無理。でも控えようとは思う。思う。)。
寒い。
毛布を掻き抱いて身を縮めても、一度意識してしまった冷たさは離れない。
そしてそれが、意識を覚醒させる。
(…未だ、だるいんだけどなぁ。)
でも知ってる。こんなときはもう起きるしか無い。
無理矢理目を瞑ってみても、倦みきった退屈と闘うだけ。
起きた方がましなの。
(寒い…)
せめてもの抵抗に、携帯電話を弄んでいたら 手先がすっかり冷えた。
ぴっぴっぴっぴっ、ぴろぴろ
がちゃり
微かに、電子音と金属の当たる音を 耳が捉えて心臓がひとつ跳ねる。
がちゃり
ばたん
がさがさと、狭い玄関で窮屈そうな音がする。
そう、靴脱ぐとき あちこちぶつけるんだよね。
何かもう其れはスペース的に仕方が無いことだから、「ぶつけてる」と思うことすら止めたけど。
ごろり、と体の向きを変えて玄関の方を向く。
「…あ、起きたん?」
開いた僕の目を見て君が言う。
盗られて困るものなんて生活費くらいだから、電子錠の番号はかなり安易で適当なものなんだけど。
それでも、その数字を知ってるのは 君だけ。
当然の如く、躊躇いもせず開閉するとか。どんだけ。
「何処、行っててん…」
「んー、コンビニ。
朝めし買って来たんだけど、何か食べたいものとかあった?」
がさがさがさ、と パンとかヨーグルトとかが出てくる。
真っ直ぐ、ベッド脇の指定席に収まって。此処はお前の家か。
「…寒い」
ぺた、と 冷えた指先を頬に伸ばす。
ちょっと触れ難いんだけど、首筋じゃあ 流石に可哀相かなーと思って。
「っ!冷たっっ!!お前、手ぇ冷たっっ!!何で布団に居るくせにそんなんなってんの?!」
吃驚して、飛び退く数センチ。
してやったりと、にやにや笑いを浮かべる。
「…やって、寒いんやもん。暖房点けてってくれたら良かったのに。」
「ばーか、何時起きるかもわかんないのに 喉に悪いだろー?」
ただでさえお前、昨夜呑み過ぎで喉荒れてんだから。
くしゃ、と 僕の髪に手を置く。
外に出てたから当たり前なんだけど、伝わる体温はひんやりと冷たい。
あぁぁ… 何で知ってんの。
掠れる声は、寝起きの所為だけじゃない。
「なー… もーちょっと寝てていー?」
頭に置かれた手に、手を重ねる。
相変わらず、空気は冷たいけれど。
ぎゅ、と その腕を抱き締める。
「ちょっと待て、お前が起きるまで 俺はこうしてなきゃあかんのか」
「んー、おやすみーーー」
緩んでく頬に 抗わず目を閉じれば、頭を撫でてくれる。
眠りの淵が、迎えに来てくれそうだ。
ねぇ、今僕は 君の一部だよね。
僕の肩に手を置いたまま、君は煙草に火を点けた。
back?