ムラサキ




 友達と購買に、お昼ご飯を買いに行った。雪が降っていて、寒かった。でも、明るい日だった。皆寒そうに歩いていた。でも、何処か軽やかだった。そうして皆歩いていた。その人も、飄々と歩いて来た。
 まず目に入ったのは、紫色のマフラーだった。あんまり見覚えが無いと思った。鮮やかな紫が、強く目に残った。
 コートの前を、開けていたからだろうか。自信が持てなかった。もう随分と、会っていないからかもしれない。この間会ったときは、もう眼鏡はやめたって言ってた。
 会いたいと思うから、その人に見えるのだろうか?コートの裾が触れそうな距離で、すれ違った。その人は、前を向いたままだった。購買の袋を提げていた。ちらりともこちらを見なかった。
 私は、声をかけたかった。「あれ?佐久間君?」そんな何気ない言葉が、あとは喉を振るわせるだけになって目の前に浮かんでいた。首をめぐらせて私が見ていたのは、完全に後ろ姿だった。会いたいと思うから、自信が持てないのだろうか?
 大混雑の購買で私は、お昼ご飯にメロンパンを買った。色とりどりのコート。あの人は来週も、この時間にここに来るのだろうか?私は、彼に会いたかった。忘れないように繰り返し思い出そうとするのに、浮かんでくるのは紫色のマフラーだけで。
 声をかけるには、遠すぎた。あの、裾にファーの付いたコート。いつか良いなと思った、あれは確かに、彼のものではなかったか。
 今更私はそんなところを確認して、ひとり後悔していた。世界が終わるくらい、好きだったひと。ぱりんと、割れたはずの気持ち。
 あれからまた、私には好きな人が出来た。だからその人はもう、なんてことの無いひとで。もう何も無いと言い聞かせた。でもそうだとしたら、この執着をどう説明すれば良いのか、私には分からなかった。
 「ごめん、お待たせー!」隙間を縫って、友達が人波から抜け出してきた。「ううん。相変わらず凄い人だね。」「ねー。ご飯時だからねぇ」「何買ったの?」「メロンパン」
 私は、彼に会いたかった。もう一度、あの紫色のマフラーに会いたかった。数え切れない、すれ違う人たち。真っ直ぐに前を向いて歩くひと。私はきっと、探してしまうのだろう。色とりどりのコートの合間に、あの鮮やかな紫を。

 雪が降っていた。皆寒そうに歩いていた。
 私の頭の片隅はずっと、あの寒い購買の前の道で、彼の後ろ姿を眺めていた。




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