モザイク




 駅の建物を出たら、黒い空にまるでモザイクをかけるように雪が舞っていた。降っているというよりも漂っているようで、均一に夜空を満たす雪だった。
 「凄い!綺麗!!」
 隣を行く友達が、無邪気に歓声を上げた。「本当…」私も、思わず見惚れた。蠢く車のライトや、看板の光に浮かび上がって、嘘みたいだった。
 君は、この空を見ているだろうか?
 ふと、寒いのが嫌いな君を思い出した。きっと君は言う。「あり得ない」って言う。それを私は、見たいと思った。
 「私、雪って好きだなぁ」
 隣で、雪国育ちの友達が言った。「綺麗だよね」私も言った。
 この空を圧倒的に美しいと思う私も、やはり雪が好きなのだ。それは君とは、分け合えないものなのかも知れない。
 友達との間に沈黙が続いて、私は、何か言わなくちゃと思った。ここではない所に思い馳せる自分を見透かされるようで、それはやたらと気まずかったから。「ねぇ、あのね…」
 必死で、言う言葉を捜した。『最近友達に、宮崎から来た子がいて…』最初に思いついた話題は、君のことだった。宮崎から来た子がいて。その後に続ける言葉が思い浮かべられなくて、私はそれを退けた。
 『寒がりの子がいて、雪とか降るとテンション低いんだよね』『宮崎のあの子、今頃真っ青になってるんだろうなー』『雪が降ると、こんな所に住むんじゃなかったって言う子が…』
 次に思いついた話題も、その次に思いついた話題も、君のことだった。
 君はここにいないのに、思い浮かぶのは君のことばかりだった。何か言わなくちゃと思うのに、それらはどれひとつ相応しくないと思った。金魚のようにぱくぱくと、私は困った。
 「早くー!バス来ちゃうよー!!」
 前の方で、今回の旅行の幹事の子が呼んだ。「今行くー!!」隣で友達が返事をして、少し足を速めた。出遅れた私は少しだけ取り残されて、結局何も言えなかった。何も言えないまま、3歩先を歩いて行く背中を見た。
 前方で、信号が点滅していた。更に足を速める彼女と、相変わらず空いっぱいに散りばめられた雪と。
 綺麗だった。この、寂しいように痛む気持ちと一緒に、一時停止して、外からずっと眺めていたいと思った。
 信号が、赤に変る。急いでいるフリに、甘えることにした。言葉に出せなかった話題が、胸の奥に詰まって苦しかった。
 「向こうも、雪が降ってると良いね」と、彼女が言った。これから行く所は、雪景色の名所だから。
 「そうだね」にっこり笑って、答えた。
 この空を見て、君は何と言うんだろう?
 私は、そればかり考えていた。信号が青に変わった。気付かれないように注意しながら、正直、足が重かった。




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