木蓮随想




 良い感じだと思っていた先輩が、私のことを気にしていたという噂を聞いた。つい最近のことだ。いつの話かは知らない。ガセかもしれない(寧ろ多分そっち)。それでも、何だか私は浮かれた。そして同じくらい、苛立っていた。春の嵐が吹く。
 だって先輩が卒業してしまって、一体何ヶ月が経つというのか。いっつも笑っていて、何処か抜けていて。狙いなんだか天然なんだか、妙にとぼけた人だった。安心したんだ。そこにいると。
 木蓮の花が咲いていた。満開を少し過ぎた、桜の横で。最後に会ったのなんて、きっとまだ、雪が積もっていた。本当に気にしていたなら、言ってくれたら良かったのに。今日は特に、花を散らす風が強い。
 私は、図書館の窓からそれを見ていた。新年度が始まって、まだいくらも経っていないのに、この課題の量は何だろう。遅々として進まなくて。いっそ帰ってしまいたいけれど、この風の中にはあんまり出て行きたくなかった。風の音の凄まじさに中断しては、窓の外を眺めてばかり。
 そういえば最近、似たような話を聞いたな、と思った。思わせぶりで、真意のわからない男の話。全く、男ってやつは。
 木蓮の花が、揺れる。枝ごと、大きくしなる。散ってしまうだろうか?桜の横で。表立って、愛でられることもなく。ふっくらと丸くて、白い花。先輩は少しだけ、木蓮に似ていたかもしれない、と思った。白過ぎず、ゆったりと構えて、何処か目立たない。
 「そんなに好きなら、今からだって、紫の方から言ったら良いのに。」姫なら、きっとそう言うんだろうな。私は、窓の外を眺めていた。わからない。別に、好きとかそういうんでも、なかった。ただ居心地が良かったんだ。そこにいると。
 好きに、なりそこねたのかもしれないと思った。好きになってくれたら、好きになれたかもしれないのに。惜しいこと。なんて。我ながら何とも無責任で、他力本願な考えだ。
 ただ。先輩はもう、行ってしまった。ここにはいない。もう側に、いることも無い。私は、何も無かったことにしようと思った。好きになっていなくて、良かったな。
 窓の外は、風が強く吹いていた。花の季節は、短くて。もうすぐ、木蓮の花も枯れるだろうと思った。




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