目隠し鬼




 丘の上で、誰かが昇って行く。白く細く、軽くなって。「鬼さんこちら、手の鳴る方へ♪」赤い着物の女の子が、はしゃいで言った。桜が咲いていた。息苦しいくらいに、桜が咲いていた。
 桜の樹の下には、死体が埋まっているって。言ったのは、誰だったっけ?この桜の下には、本当に埋まっている。林立する、無数の石塔。「目隠し鬼さん、手の鳴る方へ♪」石塔の陰を伝って、僕は逃げた。桜の花の、満開の下。
「諒ちゃん?諒ちゃん、何処?」赤い花の袖を突き出して、長い髪の女の子が手探りする。
「こっちだよ、こっち。手の鳴る方へ♪」ぱん、ぱん、と、僕は手を叩いて。乾いた手拍子が、桜吹雪に響いた。女の子の手は、空を切った。
 丘の上では、誰かが昇っていた。白く細い、煙になって。それはもの哀しいような、滑稽なような。動いていないように見えて、時に揺れた。
「諒ちゃん、此処ね?」目隠しをした女の子の手が、突然現れて僕を掠めた。「わ!」びっくりして僕は、危うく、捕まえられるところだった。
「みーっけ!逃がさないんだから!」嬉しそうに女の子の手が、空を掻きながら追い掛けて来た。まるで、見えているみたいに、正確に。
「絶対捕まえるわ。そしたら、ねぇ、諒ちゃん、一緒に行ってくれるのよね?」高揚した様子で、彼女は言った。そういえば、僕は何故、この子と遊んでいるんだっけ?
 赤い、花模様の着物。「ねぇ、諒ちゃん、一緒に行ってくれるのよね?」目隠しをした、白い面差し。
 少し、怖くなった。この子は、誰だった?
 そもそも何故、目隠し鬼なんだっけ。思い出せなくて、僕は逃げた。捕まえられては、いけない気がした。桜が降る。
 もう、手は叩かなかった。石塔が。この景色は、何処まで続くのだったかしら。丘の上では、誰かが昇っていた。煙は、淡くなってきていた。「諒ちゃん、捕まえた!」
 迂回した石塔の陰から、女の子の腕が現れた。捕まえた。腕は喜々として、僕に伸ばされて。迫った。目を閉じる。丘の上で煙が、すぅと消えた。
「諒ちゃん、あれ?諒ちゃん何処?何処?」
 泣き出しそうな声に、そっと僕は目を開けた。「目隠し鬼さん…?」のしかかる程に咲き誇る、桜。
 女の子の手が、僕を捕まえることは無かった。そこに僕は、ひとりだった。



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