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深夜零時 3人で次の店を物色していたら、1人の電話が鳴った。実家暮らしのその子は、親御さんにどやしつけられて、そそくさと帰っていった。飲み会の途中で抜けるって、遊び盛りにはなかなか悔しいと思う。 「実家だと、大変だねぇ。」私は、まるっきり人ごとみたいに言った。親の愛情は重々、有り難いと思っているけれども。ちょっとだけ、ひとり暮しでよかった。 「まぁ、女の子だから尚更じゃない?俺なんか帰省しても、思いっ切り放置されてるよ。合い鍵とか持ってるからね。」笑って、隣で言うのは、相模君だ。そうそう。同じ実家でも、そういう人も結構いる。 ばたばたと、慌ただしく去って行った背中の余韻に、私は軽く途方に暮れていた。さっきまでは、女の子2人に男1人だったのに、突然、男の子とふたりで取り残されて。 「…どうする?私たちも帰ろうか。」2人だけで、特に行くべきあても無かった。「そうだね。」もう時間も遅いし。相模君も、そう言った。空は、星が綺麗だった。 「ね、今日の店、良い所だったでしょう?」並んで歩きながら、ついさっきまで三人でいた店のことを、私は言った。「私、本当に好きで、よく行くんだ。」 「分かる、凄い常連ぽかったもん。」相模君は、笑った。 「ちょっと、人を遊び人みたいに言わないでくれる?」私も笑って、少しむくれてみせる。「ちょっとよく飲むからって、覚えられちゃっただけなんだから。」 相模君の黒いコートの袖が、すぐそこにあった。ほんの僅か手を延ばせば、届くところに。ポケットに引っ掛けた指先が、妙に手持ち無沙汰に思えた。無防備に揺れる、空の左手。 私は多分、その手を取りたかった。 「…星、綺麗だねぇ。」でも勿論、そんなこと、出来る筈もない。胡麻化すみたいに、私は目を上げた。「明日、晴れるかな。」 「何?明日何かあるの?」何気ない私の一言に、相模君が聞いた。 「ううん、別に何も無いけど。」 「あー、そっか。確かに、何も無くても、晴れると何か嬉しいよね。」 「そうそう、何かやる気出るよね。」お天気は、良いにこしたことは無い。 この人、和むなぁ、と思った。相模君。「今日、楽しかった。また飲みに行こうね。」曲がり角で、私は言った。 「そうだね。俺も、楽しかった。」 「じゃあ、おやすみ。」 手を振った。この曲がり角を、私はこっち、相模君は、あっちに。「おやすみ。」別れる。「今度は、二人きりが良いな。」 最後に、相模君がとんでもないことを言った気がした。「何言ってんの」咄嗟に、笑う。向こうを向きながら、気をつけてね、と相模君は言った。うん、ばいばい。私も、再び手を振って、歩き出す。 一人で歩きながら、私はいたく動揺していた。今のは、どういう意味だろうか?季節感の無い北斗七星が、頭の上で瞬いていた。冗談だって、笑って聞き流すべきなんだろうか? 30秒前の斜め後ろを、思い出す。私は、その手を繋ぎたかった。あの肩に頭を預けたら、寝心地が良さそうだな、なんて。仕方の無いことを、ぼんやりと考える。深夜零時。 星の合間の、空が一番に黒かった。まだ隣に、誰かの気配が残っていた。 |