拝啓




 若い身空で人生を悟りきってしまったような、何だか仙人みたいな、隠遁者みたいな友人がいる。遠くに住んでいる彼は、メールを送るといつもとんでもなく長い返信をくれるのだが、往々にしてそれは深い教訓を含んで哲学的かつ、大仰であったりする。他の人がそんなことを言い出そうものなら、もう気障でクサくて耐えられず笑い出してしまうこと必至なものだ。けれど、彼は大真面目にそれをやってのけるのだから、そんな大層な思想など持ち合わせていないこちらとしては、何か恥ずかしいやら申し訳ないやら、とりあえず笑うしかないような気分になる。そして、大抵彼からの返信は、私の心を何か暖かな気分で満たしてくれるのだ。
 要するに、彼は私の大切な友達であるということなのである。

 しかし、私は滅多に彼にメールを送らない。一事が万事そんな調子なので、くだらない事をほいほいと送るのはどうも気が引けてしまうのだ。
 だって、自分の薄っぺらさ加減を、知られたくないから。

 それでも彼の存在はいつでも私の支えになってくれているし、誰が何と言おうと私にとって彼はとても大事なものだ。そして、私の好きな人の親友でもある。
 今日、思い切って彼にメールを送ることにしたのは、私の好きな人があんまりにも私に会ってくれないからだ。
 今まで、彼にその人のことを相談するのは何となく卑怯な気がして、それでなくても、こんな俗っぽいことを彼に話すのは恐れ多くて、おくびにも出さなかった(つもりだ)。でも、もう半年以上も私は私の好きな人の顔を見ていないのだ。
 半年の間、何回かメールを出してみた。単刀直入に会えないかどうか問い合わせてもみた。でも、いつも駄目だった。
 これはもう、避けられているとしか思えない。ここまで来ると、切なさを通り越して、理不尽に怒りすら覚えようというものだ。だって私はまだ、私の口から好きだということを伝えていないのだから。
 きっと、彼も、私の好きな人も、そのことは薄々分かっているに違いない。会わないということは、ひとつの選択であり結果なのかもしれない。でもだからといって、このままではあまりにも私の気持ちがすっきりしない。
 何でも良いから答えが欲しい。誤魔化されたくない。曖昧なのは好きじゃない。私の好きな人には何の責任もないし、それを背負いたくないというのならば私が求めていることはただの我が侭だ。けれど、私は、好きだったという気持ちをどうしても、本当にあったものだったと確定しておきたいのだ。このままでは、そのことまでも全て曖昧になってしまいそうなのが、嫌なのだ。
 本当に厄介で、迷惑なものである。

 だから私は今、意を決して彼にメールを打っている。もうこの際、軽蔑されても良いや。薄っぺらな人間で良いや。ともかく、彼ならばきっと答えをくれる。そしてそれは、私の考え付く限り一番、私の傷付かない方法だから。

 しかし。私は思う。
 これを受け取ったとき、果たして彼は信じてくれるだろうか。私が、私の好きな人のことを別にしても、彼をとてもとても愛しているということを。
 誓って言う。私にとって彼は、単なる思い人の友人ではなく。勿論、恋愛の手段などでもなく。彼は私の、愛すべき友だ。

 送信ボタンを押す。不安も諦めも乗せたまま、メールは遠く遠くへ飛んで行く。



back