嗚呼 君に逢いたいな。













例え






例えば、此の思いが

思い寄せる君が

幻でも幻想でも妄想でも、私は 全然構わなかったんだ。


息を吐いたら、白かった。

それで私は、斜め前を歩く君の手をとった。

半歩後ろを行くのは、私の癖で。

だって目に映っていれば其処に居ると確信出来るでしょう?

置いて行かれたり、しないでしょう?



冷たい。

冷たい空気の中で、その手の平はやっぱりひやりと冷たい。




「奈津?」


不意のその行動に、不思議そうに振り返った。

その顔が声が幻でも。


にっこりと 微笑んだ。

ねぇ、その瞳に映っている私は 少し違う。


君は、私のことなんて見ていないでしょう?

それでも、微笑みかけてくれる暖かな空気が愛しくて。


いつまで、気付かないで居てくれる?



ぎゅ、と 繋がれた 触れただけの手の平。

ねぇ、何時まで私は 君の中に居る「私」を演じていられるかしら。



(本当は 気付いて欲しい。)



空は白くて、重く垂れ込めていた。
それでも 眩しく輝くから。


「それじゃあ、おやすみ。また明日ね。」

「ぅん、10時ね?」



笑って、手を振った。

明日の約束を繰り返して、今日はさよならと。


小さくなる君の背中が振り返ることは無いのを知っているけれど、
角を曲がって消えてゆくまで 眺め続けた。

息を吐いたら白かったので、
さっきまで繋いでいた手の平の感覚を追いかけた。



(例えば、私が 理想に振る舞うことに疲れて)

(君の見ているような、「私」じゃなくても)

(何もあげられなくても、)

(それでも、好きになって)


白い空に視線を彷徨わせて
君の曲がっていった路地の跡を通って


ぱたり、

下げた視線の先に、黒い染みが落ちた。
あぁ 雨が降り始めたのだろうか。


息を吐いた。

いい加減 生産する身体も冷え切って、外気温と違わないから もう白くなかった。




(我が侭、なのかな)


繋いだ手の感覚を追いかけた。

触れてしまったから、もう幻ではいられないと思うのは。


(幻の方が、よかったのかもしれない。)

(幻は、裏切らない。)



でも 幻だけでは形がわからなくなるから。


ぱたぱた、ぱた



緩慢な速度で、雨が降る。

けれど不思議と身体に当たるのは感じなかった。


不審に思って、顔を上げる。










視界が滲んだ。



頬が一筋 冷たかった。





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